華鬼関連の二次創作小話を掲載しております。
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前・中・後編でつづくお話です。描きたかった、桃子と神無の和解話。どちらかというと響と桃子、神無と桃子に重点を置いた話となっています。ご本家様で今後描かれそうなきもしますが……まあ、これも一つのパラレル話としてみていただけると幸いです。
単品でも全く問題ないですが、
これを読む前に↓を読むともっと話が面白いかもしれません(びみょーにリンクしています)
Best Partner (前編)
再会
「ありがとうございましたー」
今しがたパンを買っていったお客に丁寧にお辞儀をして、桃子はふと向かい側にある時計を見た。
時間は午後五時前を指している。もうすぐパート終了の時間だ。
そうすると、落ち着かなくなって桃子はちらりと横にあるカレンダーを凝視する。
何の変哲もない無地のカレンダーには、一つだけ、大きく丸々と赤丸で囲ってある日付がある。
『店長の結婚式』。
なぎさが書いたであろう字はどこかうきうきと弾んでいて、そしてこの日だけは店も完全休日となる触れ込みを、店頭で配るチラシやお得意客には口頭で伝えていた。
(明日……)
ずっと前から気になっていたが、いざ当日前日になると知らず胸はざわつく。
早くなる鼓動を落ち着かせるように息を吸い込んだ桃子は、カレンダーから視線を反らした。
(明日、神無に会える……)
強く刻み付けるように胸の内で反芻したのと、五時を指し示すアラーム音が鳴ったのは、ほぼ同時だった。
鬼ヶ里高校の事件から数年経ち、誤解から仲たがいしていた神無と連絡が着いたのはつい最近だった。それとほぼ同時に店長の結婚が決まり、その相手が神無の母親だったことに奇妙な縁すら感じてしまい、震える手で神無に再度連絡を取ったのは数週間前のこと。
店長は、結婚式は『身内だけでの食事会』と言っていた。ならば身内である神無がこちらに来る可能性は高いのではないか。たわいのない話の後、思い切って話を切り出すと、案の定こちらに来る予定だったため、その時に会えないかと他ならぬ桃子が提案したのだ。
断られるかもしれない。そう過ぎった不安は杞憂に終わり、神無は一も二もなく頷いてくれて、楽しみにしていると弾んだ声でいってくれた。その声が、数週間経った今も耳に残って離れない。
「桃子ちゃん、お疲れ!もうあがっていいよー」
なぎさの明るい声で、過去から現実へと思考が舞い戻る。
「あ、ありがとうございます」
上ずった声でそう言って、ハタと店長がいないことに気がついた。
「あれ、店長は……?」
「明日の式で肝心なものを買い忘れたって慌ててさっき出て行ったよ。
あーでも楽しみだなー結婚式!桃子ちゃんも来ればよかったのに」
今しもどこかに飛んでいきそうなほどうきうきとしているなぎさにやんわりと苦笑して首を振る。
「あたしは部外者ですから」
神無と知り合いということが発覚してから、式に来ないかと桃子も誘われたのだが、桃子は断った。お祝いできる立場ではないという事は自分が一番理解している。だから何度誘われても笑って頑なに首を横に振り続けたのだ
「そんなことないと思うんだけどなー」
「…結婚式、あたしの分まで楽しんできてくださいね」
うーんと納得できない表情をするなぎさに桃子は苦笑して、帰り支度をするために更衣室へと向かった。
(結婚式か……)
ふと着替えながら思い出すのは、自らが鬼ヶ里へ連れて来られた当日のことである。
形ばかりの式だと聞かされても、家族から邪魔者扱いされ追い出されるように来た身としては、やっと自分を認めてくれる者の側にいられるのだと少なからず安堵したことを鮮明に覚えている。
それ故に、容姿が美しくないという理由だけで鬼に罵詈雑言を浴びせられ、捨てられた絶望は今まで味わったことのないものだった。
しかし、それすらも今は過去のことだと割り切れるようになったのは、一人の男のお陰だと桃子は思っている。
「あ、桃子ちゃん、響君来てるから」
ひょいっと顔を見せたなぎさの嬉しそうな笑顔に、桃子は知らず顔が赤くなる。
急いで着替えて表に出るとゆったりと席に座っていた響が立ち上がった。
「帰るぞ」
「うん」
そう言ってくるりと背を向ける男の背中を追う。
確かに自分が変わったのは、この男に出会ってからだ。
共犯者だった冷酷な鬼は、自分の意志で桃子を自らの花嫁とした。
嫌がらせと思っていた行為の数々が全て計算しつくされた思いやりだったのだと知ったとき、
頑なだった桃子の心はゆるやかに溶けていった。
過去の傷を清算するきっかけをくれたのもまた響。
だから、響は桃子にとって、今や特別でかけがえのない存在なのだ。
(だけど)
そこまで考えて、ちろ、と横を歩く秀麗な男の顔を見る。
今は桃子にとって大事な存在ではあるが、
そもそも神無と仲たがいする原因となったのは他でも無い響自身が原因なのは否めない。
事件の際、神無に対して響がやった数々の非道な行為はなまじ簡単に許されるものではないということも分かっているため、桃子にしてみれば非常に複雑で悩ましいことでもあった。
「……なんだ?」
じっと顔を凝視していたため疑問に思ったのであろう響が怪訝そうな顔でこちらを見た。
しかし今の複雑な胸中を話したところでどうしようもないため、桃子はなんでもないと顔を背けて、歩く歩を早めた。
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