なんて素敵な寮ライフ（1）

4回続きます。響桃夫婦、と京也のたわいのないとある一日の話です。

ピンポンと告げるチャイムの音に顔をしかめて確かめる。見知った声に観念して扉を開けると、ダンボールを両手に持って、にこにこと機嫌よさげな両親が扉の前に立っていた。

 

なんて素敵な寮ライフ

 

京也が鬼ヶ里高校に入学するのはもう最初から決められていたことで、京也としても神楽と華と一緒にいられるのならば別段悪くないかと勝手に進められていた手続きに何の感慨も抱きはしなかった。

しかし、寮への引越しは業者に頼むとばかり思い込んでいたのに、業者には頼まず、あろうことか両親の手によって荷物を移動させられると知った時は流石に反発した。

そんなに運び込む荷物もないし、新しく見繕った服を持っていきたいから、と言うのは桃子の弁だったが、それ以上に男子寮がどんなところか見てみたいだけだろうということが言葉の端端に感じられ、面倒くさいと一蹴したのだが、あろうことか響が桃子に賛同したため、京也が男子寮に到着した三日後に引越しは決行されることになった。
「おおー男子寮ってこんな風になってるんだー」

声を弾ませる桃子は嬉しそうに辺りを駆け回る。

「終わったらさっさと帰れよ」

不機嫌そうに告げはしたが、全く気にせずあちこちと興味津々に見て回る桃子に京也はため息をついた。対する父親である響はゆったりとした足取りで視線だけを動かして部屋を眺めている。

「俺の時よりだいぶ狭いな」

「そりゃ、響と違って俺はそんなに強くないからな」
にべもなくそういうと、ふうんと大して興味なさげに響が相槌を打った。

鬼ヶ里高校男子寮の部屋の配分は鬼の力の強さによって個室の規模が違う。

鬼頭に並ぶ実力者で圧倒的な力がある響はさぞかし大きな部屋をもらっていたのだろうが、

息子である京也は普通の鬼より力があるとはいえ、結局はそれだけだ。自然と規模もそれなりの部屋になる。

そのことは別段気にしてはいないが改めて口に出されると面白くはなく、京也は憮然とした表情でダンボールの箱を開け始めた。

「それにしても男子寮って簡素ねー。思ってたより地味っていうか」

ひとしきりあちこち眺めてきたらしい桃子が期待はずれの色を滲ませて戻ってきた。

そんな桃子の真意を汲み取り、興味なさそうにダンボールの中身を取り出しながら京也は応える。

「桃子が行ってた女子寮は花嫁のための施設だからな。至れり尽くせりなのは当然だろ。こっちは迎える側だから、自然と粗雑になる。まあバランスが取れてていいんじゃないか？」

人事のようにいうのは正に人事だからだ。それよりも今問題なのは本の下に挟まっている訳の分からないコードを引き出すことだと理性的な頭は判断している。

「女子寮っていえば、華ちゃんも女子寮に行くの？」

「ああ、そうらしい。本人は複雑そうだったが、まあそれはそれで楽しそうとか言ってたな」

「そっか……華ちゃんが女子寮にねー……そう考えるとあたしも歳取ったなー…あんたは流石に全く変わらないよね」

どこかしみじみと感慨深げに呟いた桃子は隣にいる響に羨ましそうな、それでいてどこか憎らしそうな感情をこめた言葉を投げる。すると響はそうか？と桃子を引き寄せると顎に手をあててじっと桃子の顔を見た。

「おまえもあんまり変わってないと思うが」

至極真面目に発言する響の手を振り払って桃子が憤慨した。

「冗談！肌の質とか艶とか全く別なんだから！もうほんとそういう意味では鬼ってうらやましい」

ぶつぶついいながら、京也の隣に陣取って荷解きをはじめる桃子を不思議そうな目で見つめる響に、京也は今日何度目かしれないため息をついた。

→2編へ