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華神と響桃は俺の正義。というか本当に本編後のこの4人はいろいろと面白いと思います。
4人が大好きですともさ!
携帯電話と宿敵と
最近、華鬼は携帯を持つようになった。
華鬼の父親である忠尚が携帯の基地局を建てさせたことにより、電波が繋がりやすくなったという点と、なにより、離れていてもすぐに神無の声が聞けるという便利さが主な理由だった。
しかし、今この時だけは、華鬼は携帯を持ったことを後悔していた。
『おい』
電話の先で聞こえる不機嫌な声は明らかにかつての……いや、今でも宿敵である鬼のものだったからだ。
宿敵の鬼……堀川響は、鬼頭という名を嫌うあまり、華鬼を付けねらい、
効果的だからと、それだけの理由で華鬼の花嫁である神無にまで手を出した、今でも見れば殺したくなるような相手である。
学園を半壊させ、今では伝説になったあの事件の際、再起不能になるように遠慮なく体中の骨を折ったのだが、何の因果か神無の一番の親友である土佐塚桃子と一緒になり、結局なんだかんだで関係を持たざるをえなくなっていた。
神無関係なので、普段は仕方の無いことだと割り切っているのだが、極力関わりたくない相手からの直電話は流石に許容範囲を超えている。
「何の用だ。殺されたいのか?」
不機嫌さをありありと現した低い声で唸るように言うが、電話先の相手は意にも返さず、
それどころかそんなことはどうでもいいとばかりの声音で、耳を疑うような用件を口にした
『……つわりでも食べられる食事を教えろ』
「は?」
思わず疑問の言葉が口からついて出る。
聞き間違いかと思って黙っていると、
苛立ったような相手の声が再度驚愕の内容を告げる。
『聞こえなかったのか?つわりでも食べられる食事だ』
どうやら、耳は正常に機能しているらしい。
けれど、内容が内容だけに、バカにしているのだろうかと怒りが湧いてくる。
しかし、相手の声は至極真面目で、否、寧ろ切羽つまっているようで
何がどうしてこんな状況になったのか分からず、完全に華鬼の思考は停止した。
ここで電話を切ってやろうかとも思ったが、多分奴のことだから、蛇のようにしつこくかけ直してくるだろう。
どうしたものかと途方に暮れていると、先ほどから断片的に会話を聞いていたらしい神無が、ふと思いついたように口を開いた。
「……土佐塚さん、そういえば、妊娠してつわりがひどいって……」
ぽつりと零された言葉は、全てを理解するのに十分なものだった。
つまり、目の前の宿敵は、妊娠中のつわりで苦しむ自らの花嫁のために、こうやってわざわざ、宿敵にとっても虫の好かない相手であるだろう自分に電話をかけてきているのである。
その気持ちが分からないならよかったのだろうが、なまじ分かってしまって質が悪い。
華鬼は大きく嘆息すると、電話先でいきり立っている敵に向かって必要最低限の言葉を発した。
「……シャーベット」
『シャーベット?』
「果物を凍らせたものを、砕いてシャーベット状にする。これなら神無も食べられた」
それは、今現在神無が手に抱いている子供を妊娠している際に、同じくつわりで物を食べられなかった神無に華鬼自身が出したものだった。
栄養価は高くは無いが、食べられるという点だけ幾分か安心できる。
そう思い出しながらいうと、電話先の宿敵はいくらか逡巡した後、
『わかった』
と言って、電話を切った。
ツーツーと通信が切れた淡白な音を聞きつつ、感謝の言葉ぐらい言ったらどうだと胸中で毒づく。
もちろん、本当に感謝の言葉がほしい訳でもなく、寧ろあったらあったで気持ち悪いのだが。
「電話、終わったの?」
「ああ、今切れた」
腕を揺らして、竜希を寝かしつけていた神無がゆったりと訊ねるのに、華鬼は短く返答する。
すると、神無が嬉しそうに目を細めた。
「土佐塚さん、大事にされてるんだね」
学生時代からの一番の親友……学生時代は偽物だったらしいが、今は本当に親友だ……のことを思って嬉しそうな神無を見て、華鬼の口も自然と苦笑の形を象る。
神無自身、宿敵の堀川響に対してはされたことがされたことなので、未だ警戒を崩さないが、
あの、花嫁に現を抜かすタイプではないだろう宿敵が親友を大事にしているという事実が純粋に嬉しいのだろう。
神無が良ければそれでいいと思っている華鬼は、先ほどの苛立ちも忘れて、神無を抱き寄せて微笑んだ。
fin