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華鬼関連の二次創作小話を掲載しております。
2025/05月

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響が桃子を『好き』だと本当に自覚したのはいつだったんだろう?と思ってできた話。

初恋来るといざしらず
 
明るい光が、設置された小さな窓から零れている。
外はいい天気なのか、と響は何の気なしにそれを見つめた
 
鬼ヶ里高校始まって以来の事件は、自身の敗北という形で終息した。
コツコツと年月をかけて整えた舞台が成果もなく崩れたのに何も感じないということはないが、別段引きずることでもない。
また一から考え直し、再度舞台を整えていけばいい。
大事なのは目的を達成する。ただそれだけなのだ。
 
そこまで考えて響は軽く息を吐き、見つめていた窓から目を離した。
正面を向くと、そこには白い壁が広がっていてここが病室であるということを如実に示している。
数日間ベッドに縛り付けられるように寝かされ、見飽きた壁の色を見ながら、
同じくここ数日、ことあるごとに浮かんでくることに思いを馳せる。
ずっと気になって頭から離れないモノ。それは自分でも意外なことに、今回の事件のために手を組んだ土佐塚桃子のことだった。
 
華鬼の花嫁である神無を利用するために、手を組むよう仕組んだ駒。
彼女を上手く使うために見せないようにしていた真実を暴露した今、彼女と会うことはもうないだろうとぼんやり考え……そこで少なからず気落ちしている自分に驚いた。
確かに面白い女だと気に入ってはいたが結局それだけで駒なのには変わりなかった。
変わりなかった……はずなのだ。
響の中で生まれた小さな動揺は、やがて乱闘の際に起こした自らの行動を思い起こさせる。
上から派遣された選定委員の男……見るからに品位の無い下級の鬼が、神無を庇った桃子を襲おうとした途端、自分の中の何かが弾け飛び、目の前に倒すべき鬼頭がいるにも関わらず、選定委員の鬼を殴り飛ばしたのだ。
あれは、一体なんだったのだろうか。
お気に入りの駒が自分以外に壊されるのを嫌った行動とも考えられるが……
それにしては、湧き上がった感情は今までにない類のものだったのだ。周りが見えなくなるほどに。
響は深く考えようとして……結局辞めた。
どうせ考えたところで、結局彼女に会うことはもう無いのだ。ならば考えるだけ無駄だろう、そう結論付けて目を閉じた。
ガラガラと不快な音をたてて病室の扉が空いたのはそのすぐ後だった。
 
「うわー、響、凄い格好」
 
どうせ看護士か何かだろうと思っていた響は、聞こえてきた声に耳を疑った。
驚いて目を見開くと飛び込んできたのは紛れもない、先ほど考えていた女……土佐塚桃子本人だったからである。目をしぱしぱと瞬かせて響を見つめ、やっぱりあれだけ殴られればこうなるかと勝手に変な納得をしている彼女は本当にいつも通りで、あの事件などなかったかのような振る舞いだった。
「おまえ……なんでいるんだ」
呆気に取られて目の前の人物を見つめると、
ひとしきり他人を凝視して満足したらしい彼女は、手に持っていた大きな荷物をがさごそと探りながら、至って普通に応えた。
「何って、面倒見に」
「……なんで面倒なんて見に来る。俺はお前を騙してたんだぞ」
完全に理解の範疇を超えた桃子の返答に、流石の響も面食らって額に手をやる。
夢でも見ているのだろうかとさえ思う不可思議な状況は、それでも現実なのだ。
軽い眩暈を覚えながら思っていたことをそのまま呟くと、彼女はそこでぴたりと動きを止めてこちらを見つめた。
「確かにその点ではほんっと腹たつし、許せないって思ったけど……
でも騙されたといえ、あたしがやったってのに変わりはないから」
きゅっと手を握って俯いた横顔には、言い知れないやるせなさと、後悔が渦巻いていた。
旅行にでも行くのかという大荷物を見れば自ずと想像がつく。きっと誰にも何も言わずにここに来たのだろう。変に堅気な気質のある彼女のことだ、それくらいはやりかねない。
そう思い口を開きかけた時、桃子の真摯な瞳とぶつかった。
「だからあたし決めたの。あんたを監視するって。
 あんたが、木藤先輩を、そして神無をもう襲わないって分かるまで……あんたを見張るって。
 それが今のあたしにできることだから。
……面倒見るのもそのためだから、勘違いしないでよね」
毅然とした態度でそう宣言する彼女はまっすぐに響を見つめていた。
桁違いの強さを持つ響に屈さない瞳は、後悔と怒りなど様々な思いを内包し、以前よりも強く煌いている。その瞳を見て、ああ、そうか、と響は納得した。
あの時、選定委員を殴り飛ばしたのも、事件後彼女のことが気がかりだったのも全て……。
パズルピースが合わさるように、不可解だった自分の行動、言動、気持ちが繋ぎ合い露にされた一つの答えは、自分でも意図しなかった感情。
それは……
「……なによ」
胡散臭そうに見つめてくる彼女の態度で、自分が笑んでいるのだと気づいた。
険しい顔で睨んでくる桃子を見て一息つき、響は“いつも通り”笑って見せた。
「いや、無駄な努力をする物好きな女だと思ってな」
しれっとそういうと、見る間に桃子の眉が釣り上がる。
「あんた絶対完治したらぶん殴る!あたしは絶対諦めないんだからね!」
そういうと手に持ったタオルを勢いよく引っこ抜き、乱暴な足取りで桃子は病室から出て行った。
「諦めない……か」
一人取り残された響はしらずこみ上げてくる感情に任せて楽しげに微笑む。
お気に入りの駒だと思っていたモノは、響の中でいつの間にか一人の人間へと姿を変えていた。
終ぞ持つことのないと思われていた感情は、彼女の存在で色づき始める。
それは恋という名の、美しい華。
「俺も、諦める気はないさ」
放っておけばたちまちすり抜けて行く女を、さてどう繋ぎとめようか。
そう思いながら、彼女が出て行ったドアを見る響の顔には、今まで誰も見たことが無い微笑が広がっていた。
 
fin
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