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華鬼関連の二次創作小話を掲載しております。
2025/12月

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記念すべき響桃小説一作目。
響桃がまとまった時一番はじめに仰天するのは
律と由希斗だろうなーと思ったもので。
 


「……今、何時だ?」
「10分遅れ。まずいな……」
乗ってきた車から慌てて降り、どこの高級ホテルかとつっこみを入れたくなるほど豪勢なマンションの玄関ロビーにたどり着いた律と由紀斗の息はすでに絶え絶えだった。

とある二人の語り草


今朝早く、約二年ほぼ音沙汰のなかった主人から、急に連絡があった
「今日10時までに、以前送った住所に来い。そこにいる桃子を守れ。手は出すなよ。」
内容は簡潔。しかし、送られてきた住所からすれば、正に無茶ぶりでしかない命令に、
久しぶりに肝が冷えたことを思い出す。
現鬼頭がいなければ、時期鬼頭になっていたであろうとまで言われた実力者である鬼、堀川響の
『庇護翼』である二人は、己の主人を誰よりよく知っている。
普段こそ人あたりは良いが、その実残忍な性格をしており、些細なことでも、気に入らなければ容赦のない措置を何のためらいもなくとるのだ。
だからこそ、期待に応えるように行動するしか選択肢はないと無我夢中で鬼ヶ里を飛び出したのだ。それはもう、死ぬ気で。

「番号は?」
「たしか1003」
あまり見慣れない銀のボードに備え付けてあるインターフォンを押すと、ポーンという小気味のよい音が聞こえ、「はい?どなたですか?」と聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。
名前を告げると、相手は驚いたようだったが、すぐに了承の意が帰ってきて、同時に間近にあった透明なガラスドアがスッと開く。
すぐさま、先ほど教えられた通り、右奥から三番目のエレベーターに乗り込むと静かに扉が閉まった。
音もなく動き出すエレベーターの壁際でふうと由希斗がため息をついた。
「まさか、あの女、響と一緒にいたとはな」
「あの女がいるってことは……響、また何かやらかすつもりなのかな」
「……さあな」
不安げな律の声に、気のない声で由希斗が答えた。
先ほど出た女の声は、二人にとってはいろんな意味で忘れることができない存在だ。
土佐塚桃子。2年前、響が打倒鬼頭を掲げた際に手を組んだ女である。
最も愛されるはずの『鬼の花嫁』であるはずなのに、その鬼に捨てられ、また、実の家族ともそりが合わず、孤立していたところを、利用できると踏んで響が仲間にした女だった。
しかし、予想外にその女は気が強く、桁違いの強さを誇る響に対して、対等な口を利き、しばしばその響さえも閉口させるほどの態度を示したのだ。
普段短気な主人が、怒るタイミングを逃して呆気にとられるのを見て、二人で忍び笑いを堪えたこともある。
しかし、同時にあんなに楯突くのならば、消されるのも時間の問題だろうと踏んでいたのだが…
まさか一緒に住んでいたとは。予想の大外れはもとより、斜め45度をかっ飛んだ現実に多少思考がついていかない。
「まあ、響のことだから、何かまた鬼頭に関することだろうな」
他でも無い、寧ろこれしかないだろうと思われる結論を由希斗が口にすると、
言葉にはしないものの暗に律も同意した気配を見せた。

しかし、観葉植物のある通路を抜け、奥にあるドアの呼び鈴を鳴らした後、出てきた人物を見て二人の結論は大きく揺らぐ。
なぜなら彼女のまとう香りは……まぎれもない、己たちの主人のものだったからだ。



落ち着かない。
それは、この部屋の空気なのか、女の纏う香りのせいなのか、
それとも、主人の意図がまるで読めないからか。
多分その全てだろうと、二人は同時に嘆息する。
全てが、予想外だ。これでは斜め45度ではなく、180度カッ飛んでいる。
どう対処すればいいのかなんて分かるはずがないではないか、と
今は外出しているという主人を恨めしく思った。
「響が、客が来るから相手しておけ、なんて言うから誰かと思えば、あんたたちだったとはねー
 あ、紅茶がいい?それともコーヒー派?」
「……お構いなく」
「右に同じく……」
久しぶりに会った女……土佐塚桃子は以前見た時以上に、張りのある声で話す。
くるくるとキッチンで立ち働きながら、器用に喋る彼女は、
嫉妬や様々な悪意で塗り固められていた以前とは違い、見違えるほど変貌していた。
綺麗になった……というには鬼からすれば桃子の容姿は普通以外のなにものでもないのだが、
自然と目がいくほどの、何かが内側から溢れているのが見てとれた。
それは強い刻印の香りとあいまって、強烈な魅惑となる。
ともすれば襲いそうになる欲望を押さえ込むのがやっとだった。
「とりあえず紅茶にしといたけどよかった?……っていうか二人とも顔色悪い。気分でも悪いの?」
何故この女に響は刻印を……そう思ったと同時に、ことりと目の前にカップが置かれ、
遠慮なく顔を覗き込まれた。
「ちょ……それ以上は……」
反射的に後ろに後ずさり、香りをかがないように鼻から下を手で覆う。
「香りが……強いんだよ」
今ひとつ状況を理解していない桃子につかえながら由希斗が告げると、
ああ、と納得したように桃子が頷いた。
「刻印の香り?……そんなに強いんだ」
納得はしたものの、イマイチ現実感がないらしい桃子は、悠長に襟をつまんで自らの刻印を確認している。
「当然だろ、響は現鬼頭に継ぐ力をもってるんだ。刻印の力は相当強い」
「え、響ってそんな強かったの?」
「そうでなきゃ、鬼頭に反乱なんて起こそうとしないだろ。常識だ。」
「そっか……強いとは思ってたけど、そんなに強かったんだ……響」
二人にとっては、至極当然な見解も、桃子にとっては新鮮だったらしい。
妙に感心している桃子を見て、二人は深いため息をついた。
「しかし、またなんでお前に響の刻印がある?響は何を考えているのかお前は知ってるのか?」
濁すのもばからしくなってきたので、由希斗が核心をついた問いを投げると、
桃子は自分用のカップを持ち上げたまま目を丸くした。
「何であたしに聞くのよ」
「どうせ鬼頭がらみだろ?じゃなきゃ響が刻印なんてつけるはずがない。
 自分の花嫁にすら、興味がない鬼だからな、響は」
いいながら、以前『庇護翼』として警護した、一人の花嫁を思い出す。
美しい容姿をしていたのにも関わらず、いちいち干渉してうざったいという理由だけで、響は自らの花嫁を他の鬼へと嫁がせたのだ。
そんな『花嫁』に興味のない鬼が、今更、容姿も優れているとはいえず、ただの駒のはずだった桃子に本来の理由で刻印をつけるはずがない。そう思って桃子を見ると……彼女は微笑にも、苦笑にもつかない、見たこともないような微笑みを浮かべていた。

「そうだよね……普通はそう思うよね、ほんと、響ってばそういう奴だから」

ふと零される言葉は、呆れも入っているが、それ以上に優しい響きをもっていた。
思わず目を見張ると、何かを告げるように、桃子の口が開かれる。
その動きを、見逃さないように注視した瞬間……ポーン、と人の来訪を告げるチャイムが鳴った。
「あ、ごめん。ちょっと席外すね……誰だろ?」
すぐさま席を立つ彼女の後姿を見送って、二人は深いため息を吐いていた。
「まさか……とは思うけど、響……」
「いや、ありえないだろ。だって、あの響だぞ?」
自分以外は全て駒。情という言葉を知らない鬼はすさまじいほど強く、
だからこそ畏怖を覚え誰もが彼に膝を折るのだ。
そんな鬼が、気に入っていたとはいえ、ただの駒だった女を花嫁なんかにはしないだろう。……するはずが、ないのだ。
「けどじゃあ……なんであの女は、あんな顔をしたんだ」
半分、自問するような律の問いに、由希斗は返す言葉がない。
そうなのだ、先ほど見た彼女の顔に浮かんでいたあの優しい表情は、鬼ヶ里にいた時には見たこともないものだった。それは、相手を意識した瞬間の、花嫁の表情そのもの。
だかこそ、分からずに戸惑い……そしてありもしないはずの結論を思い浮かべてしまうのだ。
響が、本当に……

「ちょっと!なにすんのよ!」

思考の波に攫われる瞬間、桃子の甲高い声が、部屋に響き渡った。
二人して視線をあわせすぐに声がした方角に向かうと、
宅配の制服を着た男に腕を掴まれている桃子の姿が目に飛び込んできた。
下には小さめのダンボールが転がっているため、宅配に来たのに間違いはない、
多分、刻印が放つ強烈な香りに自我を失っているのだろう。
男の精気のない瞳には桃子以外何も映っておらず、このままでは危険だと判断した。
「律」
「ああ」
目配せして周囲の状況を確認する。
二人で一斉にかかれば、難なく男を引き剥がせるのだが、そこにいたるまでの通路が狭い。
通路を通過する間に、桃子を人質に取られれば逆に手が出しづらくなるだろう。
しかし迷っている暇はない。ここは一気に強行突破だと二人が駆け出そうとした刹那、

「何をしている?」

金属音とともに、背筋も凍るような冷たい声が辺りに響いた。



「響…!」
桃子の声に僅かに反応した響は、男の片方の腕をなんなく掴んで締め上げ、転倒させる。
鈍い音とともにその場に鎮座した男の喉元にぴたりと手をあて、
「死にたくなければ、失せろ」
憤怒をありありと滲ませた恐ろしい声音で威嚇した。
恐怖により香りの呪縛から解放された男は、搾り出した声で謝罪と悲鳴をあげながら一目散に逃げていった。
「…大丈夫か」
「……うん、ありがと、響」
再び男が戻ってこないことを確認して差し出した響の手を取って、桃子は立ち上がった。
それがごく自然に行われているのを見て、二人は言葉を失う。
「律、由希斗」
二人に気づいた響はにっこりと、それはもう、これを見ている人間が女だった場合は骨抜きにされるような微笑を湛えて、己の庇護翼の名を呼んだ。
しかし、この笑顔が一番機嫌の悪い時に現れるものだと熟知している二人の体は瞬時に強張った。
「俺は、桃子を守れといったはずだが?」
笑顔が一層深まる。格違いの美しさが余計にそれを際立たせ、恐ろしいほどの凄味があった。
怒っている。相当に怒っている。これはどんないい訳を並べ立てても無駄な状態だ。
次に何がくるのか……恐ろしくて考えたくもないが、もう制裁を受けるしか道はないと察した時、
意外なところから声が上がった。
「響、あんまり怒んないでって。あたしは大丈夫だから。怪我もないし」
「……怪我がないなら、まあいい」
こんな状態の響に普通に声をかける桃子には驚いたが、
それ以上に、桃子の一言で凄まじいまでに場を覆っていた響の怒りが消えたことにはもっと驚いた。
しかし呆気にとられている二人を大して気に留めることなく、桃子は会話を続ける。
「それにしても、さっきあたしを守れって……そのために、二人を呼んだの?」
「ああ。お前には俺の刻印があるからな。万一のことがあったら困るだろ」
「別にあたしなら大丈夫だって。刻印あっても、店長だって全然普段と変わらないし」
「……あいつはただ鈍いだけだろ。その代わり、他の男の視線は変わってる。お前が気づかないだけだ」
「な……あたしが鈍いっていうの!?」
「鈍いだろ、実際」
ぽんぽんと繰り出される応酬は以前と似ているようで、全く質が違う。
これでは、まるで……
驚きと困惑が混じった視線で見つめていると、それに気づいた響がにやりと不敵に笑った。
「ああ、そうだ。あと一つ、手順が残っていたことを思い出した」
「手順?」
桃子が疑問を投げかけるのとほぼ同時に、響は桃子に顔を寄せる、と迷うことなくその唇に口付けた。
「ちょ……あんた……なんっ」
一瞬だったのか、それとも数分経っているのか分からないが、
とにかく長く感じられた口付けのあと、響が顔を離すと桃子が顔を真っ赤にしてパクパクと口を動かしているのが見えた。そんな桃子を満足そうに見つめて、響は驚きすぎて顔面が蒼白になっている律と響に笑顔を向けた。
「庇護翼であるお前達に紹介してなかったと思ってな。……桃子は俺の花嫁だ」
後に、よろしく、とでもつけそうな余韻を残して告げられた主人の言葉に、
今度こそ、律と由希斗は絶句した。

……自分以外は全て駒。花嫁よりも自分優先。気に入らない人間は全力排除。
そんな冷徹極まりない鬼が、駒でしかなかった女を、本当に花嫁にした。
その鬼の庇護翼である、律と由希斗がこの事実をやっと飲み込めるようになったのは
その二人に息子ができた、数年後のことである。

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